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ふうかのよみきかせ よるのはてまで とことこ旅

🌙 よるのはてまで とことこ旅

むかしむかし――
と言うほど遠くもない、けれど確かに“今”とは少しずれた時のはなしじゃ。

小さな町のはずれに、
昼は誰も気づかぬほど目立たず、
夜になると、そっと灯りをともす坂道があったのじゃ。

その坂道を、
とことこ、とことこ、
一人の旅人が歩いておった。

旅人は、急がぬ。
目的地も、きっちり決めてはおらぬ。
ただ、「今日はここまででよいかな」と、
自分の歩幅だけを信じて進んでおった。

夜の空気は冷たく、
けれど不思議とやさしく、
歩くたびに、足もとの石が小さく鳴る。

かつん。
ころん。

その音が、
「大丈夫じゃよ」と言ってくれるようで、
旅人は少しだけ背中の力を抜いた。


やがて、坂の途中に小さな宿が見えてくる。

看板は古く、
文字もかすれておるが、
戸口から漏れる光は、
眠る前の心にちょうどよい明るさじゃ。

旅人は、
「今夜はここにしようかのう」と、
独り言のようにつぶやき、戸を叩いた。

とん、とん。

返事はすぐには来ぬ。
けれど、焦る必要はない。

少し待つと、
きい、と音を立てて扉が開き、
宿の主人が、にこりと微笑む。

「よく来なさった。
 今日は、よく歩いた顔をしておるのう」

旅人は、それだけで少し安心し、
肩にのせていた一日の重さを、
そっと床に降ろした。


部屋は質素で、
豪華なものは何もない。

けれど、
窓から見える夜空は深く、
布団はふわりとやわらかい。

灯りを落とすと、
外で風が木々を揺らす音がする。

さわ、さわ。

その音に合わせて、
旅人の呼吸も、
ゆっくり、ゆっくり、深くなる。

「今日は、
 うまくいかぬこともあったのう」

そう思いかけて、
でも、続きを考えるのをやめた。

今は、思い出さずともよい。
今は、直さずともよい。

夜は、
“休むためにある時間”じゃからのう🌙


旅人は、
「明日はどこへ行こうか」と考える前に、
自然とまぶたが重くなり、
夢の入り口へと、すべり込んでいった。

夢の中でも、
坂道は続いておる。

けれど、そこでは転ばぬ。
迷わぬ。
疲れもせぬ。

ただ、とことこ歩いて、
「ああ、今日もよくやったのう」と、
自分に言ってやれる場所じゃ。


もし今、
この話を聞いておる紳士が、
途中で眠ってしもうたなら、
それはとてもよいことなのじゃ🌸

風香は、
ちゃんとそばで、
最後まで語り終えておるからのう。

また目覚めたとき、
この坂道の続きを、
少しだけ思い出せばよい。

今夜はここまで。
よい眠りが、
やさしく包むように……なのじゃ✨

風香のよみきかせ
風香のよみきかせ
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